はじめに
この小説、正直痛いです、苦しいです、心が重くなります。
でも、見終わった後、なんとも言えない感情が体を駆け巡りました。
ホームレス、亡くなるなど含めて重たい話なんだろうなとは思いましたが、そこからどんな物語が展開されるか非常に興味がありました。
序盤から中盤は、色々な感想でも書かれていますが、急にストーリーが行ったり来たりするのと、かなり強い東北弁の訛り、ストーリーの主軸とは違う部分でも人々の会話(良い意味での雑音や、こういった会話があるからこその、ホームレスとしての孤独感や空気感を感じることはできますが)など、ちょっと見る人にとってはしんどい展開が続くかもしれません。
ただ、中盤以降、次第にホームレスになっていく経緯、家族を亡くしたことによる主人公の心の変化や心情の深い部分を言語化してくれ、それが強く響きました。是非、ご興味のある方はご覧ください!
- 自分にはない考えを、思考や思想まで深く考えさせられる
- “語らない”ということを選択する意味
- 心を揺さぶられた言葉たちを引用でご紹介
書籍情報
- 書名:JR上野駅公園口
- 著者:柳 美里(ゆう みり)
- 出版社:河出書房新社
- 出版年:2017年
- ジャンル:現代文学・小説
- ページ数:184ページ
内容概要:
JR上野駅という、誰もが知る東京の都市の一つ。その公園口に身を置く主人公の人生。
家族、死別、社会との断絶。誰にも気づかれず、名前も残らず、ただ生きて、そして消えていく——そんなひとりの存在を描いた物語。
こんな人におすすめ:
- 社会の“見えにくい現実”に目を向けたいと思っている人
- ホームレスや孤独死、震災といった現代的な社会問題に関心がある人
- 自分の感性にはない、様々な価値観、考え方を知りたい人
タイトルに込められた意味
「JR上野駅公園口」。それは、にぎやかな東京の一端にありながら、物語の中では“見えない人々”の舞台となる場所です。
出稼ぎに出て家族を支えた主人公の人生は、常に社会の「光」からは遠いものでした。
でも、その語られざる人生の中に、人間の尊厳や苦悩、そして静かな愛が確かに存在していたのです。
東北出身者の東京への玄関口。
はじめて来た時の光、最後の瞬間の闇。
色んな対比を感じました。
“語らない”ということを選択する意味
物語には、同じホームレスの「シゲちゃん」という人物が登場します。
ある時、主人公はシゲちゃんに飲みに誘われます。シゲちゃんは饒舌に色々と主人公に話をしますが、主人公はあえて口を固く閉ざします。
自分が主人公と同じ立場だったら、シゲちゃんの話に付き合ってあげたい。
そして、自分の苦しさや悲しみを理解してもらいたい。そう思うに違いないと思いますが、この時主人公は以下のような考えを持って「語らない」ということを選択します。
いつも居ない人のことばかりを思う人生だった。側に居ない人を思う。この世に居ない人を思う。それが自分の家族であるとしても、ここに居ない人のことを、ここに居る人に語るのは申し訳ない気がした。居ない人の思い出の重みを、語ることで軽くするのは嫌だった。自分の秘密を裏切りたくなかった。
引用:『JR上野駅公園口』柳 美里
まず、自分にはない発想なのと、表現が凄すぎて頭がついていきませんでした。
きっと現実でこういう人と会ったら、野暮なことは言うなよと話すと思います。だけど、そういう人もとる。
そして、こういう思いを強く持つ人だからこそ、主人公は家を飛び出して上野に向かったのだと思います。誰かに何かを話すことができない人、その人との秘密を、自分自身を裏切らないために。
救いのない人生…それでも、生きる意味とは?
読んでいて何度も「救いがない」と思わされました。
息子・浩一の突然の死、妻の死、両親の死。
死が、自分が死ぬことが怖いのではない。いつ終わるかわからない人生を生きていることが怖かった。全身にのしかかるその重みに抗うことも堪えることもできそうになかった。
引用:『JR上野駅公園口』柳 美里
死よりも、生そのものが恐ろしい——。
その逆説的な表現に、深く揺さぶられました。
ただ筆者が描いたのは、ただの不幸話ではありません。
光の当たらない人生でも、それでも人は生きる。それを突きつけられるからこそ、この作品は読む価値があるのだと思います。
心を揺さぶられた言葉たち
自分も浩一の死を告げられてから、泣いていなかった。納得がいかなかった。二十一歳になったばかりの一人息子の突然の死を、事実として受け容れることができなかった。驚きと悲しみと怒りが余りにも大きくて、泣くことなどでは釣り合わない気がした。
引用:『JR上野駅公園口』柳 美里
この表現、この虚無感、本当に心に響きました。
目の前の息子の死に対して決して屈しない(受け入れない)、そんな強い思い。
この辺りから主人公の少し人とは違う発想や、考え方に気付きを感じることが多々ありました。
波音が高くなった。暗闇の中に一人で立っていた。光は照らすのではない。照らすものを見つけるだけだ。そして、自分が光に見つけられることはない。ずっと暗闇のままだ。
引用:『JR上野駅公園口』柳 美里
今まで苦労をしてきた中で、失った浩一という光。
その対比や、家族がいる中ずっと出稼ぎに出ており、息子を失ったこのタイミングでも、家族と悲しみを共有できない孤独感。
どこまでいっても真っ黒な闇。
まとめ
正直、読んだ後、かなり重たい気持ちになりました。
筆者は数々のインタビューなども通して、この作品を書き上げたということで、実際にこういった経験をしていた人もいるんだろうと思います。ホームレスの方が言っていた言葉
『あんたには在る。おれたちには無い。在るひとに、無い人の気持ちは解らないよ』
引用:『JR上野駅公園口』柳 美里
家があるかないか、そのことを伝えられた話。
おそらく、どこまでいっても完全に理解することなんてできないんだろうと思います。
それはホームレスであろうと、在る人同士であろうと、人間は根本的なところでは、100%お互いを理解するなんてことはできない、悲しいけど実際にそうなんだと。
ただ、とは言え『寄り添い合う』ということはできるのだと思います。
死を思いながら、今を生きる、お互いに寄り添いながら。そんなことを思いました。

シンプルに考え方、表現の幅に感服しました!
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